科学技術振興機構(JST)先端計測分析技術・機器開発プログラム環境問題解決領域「機器開発タイプ(調査研究)」『海洋酸性化問題解決に向けた海中フロート用4次元化学観測技術の調査研究』

概要

 総合科学系複合領域科学部門(海洋コア総合研究センター)岡村慶研究室と株式会社マイクロテック・ニチオンが共同提案した課題が、平成26年12月に独立行政法人科学技術振興機構(JST)の先端計測分析技術・機器開発プログラム環境問題解決領域「機器開発タイプ(調査研究)」へ採択されました。大気中の二酸化炭素増加に伴い、海洋酸性化による海洋環境・生態系への影響が懸念されていますが、本調査研究では、この海洋酸性化による中層~深層海水の二酸化炭素挙動を明らかにするために、研究のボトルネックとなっている観測データの時空間分解能不足を解消する採水技術および化学センシング技術について検討、開発をしています。

 

背景

 人為起源の二酸化炭素増加に由来する問題として、地球温暖化とともに海洋酸性化による海洋環境・生態系への影響が懸念されています。例えばサンゴや有孔虫のような炭酸カルシウムの殻や骨格を持つ生物の場合、海水のpHが低くなることにより炭酸カルシウム硬組織の溶解が促進されたり、成長阻害を受けたりすることが危惧されています(IPCC,ワーキンググループII報告書,2014, http//www.ipcc.ch/より入手化)。二酸化炭素増加による気候変動予測を目的として、20世紀後半から観測機器の開発が進められ、例えば衛星観測による大気中の二酸化炭素観測や海表面での光合成量の見積り手法が確立してきました。海水に溶ける二酸化炭素の挙動や分布は、衛星からでは観測ができないため、船舶や定点ブイによる観測が続けられています。しかしながら、船舶による観測は長期観測が難しく、一方、ブイ観測は、長期観測が可能でありますが、観測深度が固定されているため、空中分解能が低いといった問題点があります。つまり、“もっと連続的な深度で”、“もっと長期間に”、“もっと多くの海域で”正確なデータを得ることができれば、将来の海洋酸性化による影響予測が可能になります。

開発目標

 そこで我々が目をつけたのが、近年、海洋観測で実績をあげている自動昇降フロートによる観測です。本観測方法は、プログラムによってブイの浮力調節をし、鉛直的なセンサ観測をした後、海面からデータを衛星通信にて陸上局に送るシステムです。この観測ブイは主に海洋物理分野で用いられ、現在全世界で3,000台以上が観測に用いられています。他方で、ブイに搭載される観測センサは、水温、電気伝導度、深度(まれに溶存酸素)に限られています。我々が目的とする海洋酸性化による影響を観測するためには、これらに加えて二酸化炭素種(pHや全炭酸など)の観測が必須になるため、新たな技術開発が必要となります。これまでの海洋観測手法のシーズとして、高知大学では多連式採水器による海水サンプリング技術と化学センサ技術を有しており(高知大学リサーチマガジン第8号6-8ページ拙稿、2013年)、共同研究先であるマイクロテック・ニチオンが持つコンピュータ基板開発技術とインターフェース作成技術と組み合わせることで、自動昇降フロートに搭載可能な“小型で”、“電力消費の少なく”、“高精度に”、“安定した” 海洋酸性化観測システムの構築を実現します。