内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)次世代海洋資源調査技術(海のジパング計画)研究開発課題『潜頭性熱水鉱床の規模・品位探査に資する物理化学・生物観測技術の創出』

1.計画の概要

 海底熱水鉱床の規模等を推定するためには、熱水鉱物の偏在性・普遍性を観察することにより、どこで、どのような鉱物が存在するかといった新たな熱水鉱床調査の指標を得る事が出来ると考えられている。現在、ODP・IODP掘削孔を利用したCORK (Circulation Obviation Retrofit Kit) 観測のような水文学的観測による鉱床成因モデルの確立が進められている。しかしながら、CORK観測には掘削孔のケーシングやパッカー設置など高額なオペレーションが必要であり、国内では断層流体観測を目的とした室戸沖のA-CORKステーション、熊野灘沖のLTBMS (Long Term Borehole Monitoring System)での観測例があるのみである。熱水活動域での海底下数m程度の深度における流体移動については、CAT meterなどを用いた循環系出入口(例えば熱水噴出孔)での流量観測や、化学物質と熱流量比からの流量推測、熱水プルーム観測等のフラックス推定といった手法が取られている。これらの手法は、海中から海底面への入口・出口であるポイント(点)での推測は可能であるが、海底内での面的・立体的動きについての推測は困難である。なお、この海底内での流体の動きは、SAHFなど地殻熱流量観測より推測される温度変化より傍証を得ることができる。フランス海洋開発研究所(IFREMER)では、ピストン・コアラー型現場間隙水圧計測システムPIEZOMETERを開発・運用し、地下3mまでの間隙水圧のデータを得ることに成功している。PIEZOMETERには温度計が合わせて搭載されているが、間隙水そのものの採取装置や、pHなど他のセンサは搭載されていない。また日本国内販売価格帯が4000万円程度と高価であり、複数台同時展開は困難なのが現状であった。そこで、熱水活動域の全体像を具現化する観測網として、(1)海底下の流体観測技術、(2)熱水噴出孔観測技術を開発すること目標を基に、平成27~30年度にかけて、東京大学生産技術研究所藤井研究室、東京海洋大学下島研究室と共同で、研究開発を実施してきた。本稿ではこの計画における、高知大学での成果を主に紹介する。

 

2.開発した観測装置

 まず1.5mサイズの海底下間隙水用中型採水器PileBukerを開発した(図1)。40 cmまたは1.1 mのステンレス製槍と採水用シリンジを駆動するモーター部、制御用耐圧容器の3点から構成されている。槍の側面の一部を切り欠き、採水ポート8個をつけたアクリル樹脂の板を差し込むことで、地中の間隙水を採水する。1ポートあたりのサンプル量は2.5mLである。なつしまNT15-22航海にて、与論海穴(水深700m)の海底で作動試験を実施した。実海域での試験状況は図2に示した。作業状況を図2左上から右下へと8枚の写真で示した。ここでは槍の長さは1.1mのPileBunker-10を使用した。一端海底に仮設置し(左上から1、2枚目)、槍の部分をマニピュレーターで掴み縦に持ち(左上から3枚目)、設置時のバランスを保つリングを左マニピュレーターで差し出し(左上から3、4枚目)、両手でバランスを取りながら差し込む(右上から1~3枚目)。設置完了は右上から4枚目となる。潜航直後に設置し、採水はタイマー制御で10分間かけて行った。回収は当日夕方に行った。

 

 前段のPilebunkerの開発によってえられた知見をもとに、5mサイズの船上打込型海底観測プラットフォームを開発・導入した。本開発は高知市内の民間企業エフコン株式会社と共同で実施した。このプラットフォームは、1)地中に打込む槍の部分が全長5mであること、2)槍の内部に温度計水圧計など各種センサや採水システムを搭載できる機構を有すること、3)船上からの切り離しコマンドにより地中部の槍部のみ切り離せることとして設計・開発を行った。完成した装置SpearHeadの全体図を図1に示した。全長5mの槍(右側)、槍の直上に配置されたデータロガー等観測システム収納部、直上の打込み部の3体構成となっている。切り離し装置を使用しない場合は一体物として利用することも可能である。槍部には1m毎にセンサ及び採水用のポートが準備されている。沖縄トラフでの観測航海で使用した実際の装置が、海洋コア総合研究センター中庭にて、くみ上げた状態で保管である。お立ち寄りの際にご覧いただきたい。